マティスの描いた「金魚」たち──眺めるほどに心が整う色彩
Jan 25, 2026
みなさんこんにちは。
今回はアンリ・マティスが描いた「金魚」についてご紹介します。
金魚はマティスが度々取り上げたモチーフです。

アンリ・マティス 「水槽を眺める若い女性 1921-22」
強い色彩を用いながらも、眺めているうちに不思議と心が落ち着いてくる作品。
華やかでありながら疲れない。
その感覚こそが、金魚の絵が今も多くの人に選ばれ続ける理由でかもしれません。
本記事では、マティスが金魚というモチーフに託した思考をたどりながら、「金魚」「金魚のいるアトリエ」「金魚鉢のある室内」という3作品を通して、その変化と魅力を探っていきたいと思います。
金魚というモチーフ
マティスが金魚を描き始めたのは1910年代初頭、モロッコ滞在が大きなきっかけでした。
現地のカフェで、人々が金魚鉢を眺めながら静かに時間を過ごす姿に触れたマティスは、モロッコ人の「リラックスした瞑想的な」生活様式を称賛し、金魚を「心を留めるための存在」として意識するようになります。

アンリ・マティス 「アラビアのコーヒーハウス」
金魚は感情を語りすぎず、象徴を押しつけることもありません。
ただ視線を受け止め、見る者の呼吸を自然なリズムへ戻してくれる。
その性質は、マティスが理想とした絵画観──日常の中で人を休ませる存在──と深く結びついています。
色彩と構成──強さが整えられるまで
マティスの金魚の絵は、一見すると大胆で装飾的です。赤、緑、青といった純度の高い色が画面を満たし、決して控えめとは言えません。
それでも眺め続けていると、色同士が対立せず、画面全体がひとつの安定した状態へ収束していくのが分かります。
![アンリ・マティス 「金魚」アートポスター(フレーム付き) / Henri Matisse “The Goldfish”名画・絵画[額入り]4](https://cdn.shopify.com/s/files/1/0619/4878/8932/files/The-Goldfish_4_ad7802dd-0a91-424a-860a-ac24b4fd5dbb.jpg?v=1768427872)
これは、色彩が感情を刺激するためではなく、互いに支え合うよう慎重に配置されているからかもしれません。
視線は一点に固定されることなく、画面の中を巡り、自然に戻ってくる。
その循環が、見る者に安心感をもたらしてくれます。
代表的な3作品から見る金魚の展開
マティスは金魚という主題を、異なる空間設定の中で繰り返し描きました。
ここでは特に重要な3作品を取り上げます。
金魚(1911年)/ The Goldfish ──眺める行為そのもの
水槽の中を泳ぐ金魚が画面の中心に据えられたこの作品では、丸い水槽の透明な水の中をくるくる動き回る生き生きとした金魚と、それに呼応するように配置された丸テーブル、曲線の手すりや、植物などが、鮮やかな色彩と共に心地よく響き合い画面を構成しています。
円形の水槽は、ひとつのフレームのように機能し、私たちはその中を静かに覗き込む立場に置かれます。
金魚は動きを誇張されることなく、見る行為そのものを受け止める存在として描かれています。
金魚のいるアトリエ(1912年)──制作の場に置かれた金魚
この作品では、金魚はアトリエ空間の一部として登場します。
彫刻や絵画、家具が同時に描かれ、画家の制作環境そのものが主題となっています。
金魚鉢は、瞑想の対象であると同時に、色彩と形態のバランスを整えるための装置でもあります。
赤い金魚は、画面全体の色の関係を調整し、空間に落ち着きを与えています。
赤い金魚が画面の中心で色彩リズムを生み、横たわる女性ヌードの柔らかな曲線と調和します。
金魚と人体、静物のリズムが相互に響き合い、画面全体に生き生きとした装飾的リズムを生み出す本作は、フォーヴィスム期後のマティスの色彩実験と装飾的構成の成熟を示す作品です。
金魚鉢のある室内(1914年頃) / Interior with a Goldfish Bowl ──空間をまとめる核
室内に置かれた金魚鉢を中心に描かれた静謐な作品です。
ガラス鉢の中には小さな金魚が泳ぎ、その周囲には椅子や植物、窓越しの庭の緑が配置されています。
空間は伝統的な遠近法ではなく、平坦な色面と太い輪郭線によってリズムよく構成されています。
金魚鉢は画面の一要素でありながら、全体の視覚的な核となり、室内をひとつの安定した状態へと導きます。
金魚はここで、空間そのものをまとめ上げる役割を担っています。
金魚をめぐる周辺作品──視線・空間・制作の広がり
金魚を直接描いた作品以外にも、マティスは「眺めること」「留まること」をめぐる主題を、さまざまな形で展開しています。
以下の作品は、《金魚》シリーズを理解するうえで重要な位置を占めています。
水槽を眺める女性 / Woman in front of an aquarium 1921
水槽そのものよりも、それを見つめる女性の姿に焦点が置かれた作品です。
この作品を見ると、マティスが“金魚を眺める”という行為自体をとても意識していたことがよくわかります。
ここでは、金魚は画面の中心的な主役ではなく、視線を受け止める対象として存在しています。
鑑賞者は、金魚を見る女性をさらに外側から見る立場に置かれます。
この二重の視線構造によって、「眺める」という行為そのものが静かに意識化されます。
アラビアのコーヒーハウス / Arab Coffee House, 1913
モロッコ滞在中に描かれたこの作品では、人々が静かに座り、時間を過ごす空間が描かれています。
直接的に金魚は登場しませんが、視線が留まり、心が落ち着く状態そのものが主題となっています。
金魚を眺める体験の原型とも言えるこの感覚は、後の《金魚》シリーズへと確実につながっていきます。
テラス上のゾーラ / Zorah on the Terrace, 1912

開かれた屋外空間でありながら、この作品には不思議な静止感があります。
人物は動作を止めていますが、右下に配置された金魚鉢の金魚だけがおそらく、静かに泳いでいるのが感じられます。
見ていると時間が緩やかに引き延ばされたように感じます。
ここでもマティスの関心は、出来事ではなく「そこに在る状態」を描くことに向けられています。
金魚とパレット / Goldfish and Palette, 1914

キュビズムの影響を受けたこの作品では、金魚鉢と絵画制作の道具であるパレットが同時に描かれます。
金魚は、自然のモチーフであると同時に、画家自身の制作行為と直接結びつけられています。
見ること、描くこと、色を選ぶこと。
そのすべてがひとつの画面に集約され、金魚はマティスの制作思想を象徴する存在として位置づけられています。
今も愛され続けるマティスの「金魚」
マティスの金魚が今も愛され続けている理由は、眺めているうちに心が自然と整っていく、その感覚にあるのかもしれません。
作品は強い主張や物語を持たず、色彩と構成そのものによって成立しているため、鑑賞者は構えることなく絵と向き合うことができます。

アンリ・マティス 「金魚鉢 1921-22 / The Goldfish Bowl, 1921-1922」
視線は巡り、留まり、また戻ってくる。
その安定したリズムが、長く眺めても疲れない理由となっているのではないでしょうか。
時代や価値観が変わっても、金魚の絵が古びることはありません。
それは、感情を煽るのではなく、見る者の状態を静かに整えるという、普遍的な役割を担っているからのように思います。
おわりに
マティスにとって金魚は、単なる静物ではなく、色彩と人の心を結びつけるための存在でした。
強さを持ちながらも安定したその色彩は、今も私たちの生活の中で、変わらず穏やかな時間をもたらしてくれます。
![アンリ・マティス 「金魚」アートポスター(フレーム付き) / Henri Matisse “The Goldfish”名画・絵画[額入り]0](https://cdn.shopify.com/s/files/1/0619/4878/8932/files/The-Goldfish_0.jpg?v=1733286525)
朝のやわらかな光の中で、あるいは一日の終わりに照明を落とした部屋で、ふと目に入ったとき──金魚の色彩は、意識せずとも心の速度を少しだけ緩めてくれるはずです。
もしこの感覚を日常の中に迎え入れたいと感じたなら、マティス《金魚》のポスターを、暮らしの一角にそっと取り入れてみてください。
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![アンリ・マティス 「金魚のいるアトリエ」アートポスター(フレーム付き) / Henri Matisse “Studio with Goldfish (1912)” 絵画・名画[額入り]0](https://cdn.shopify.com/s/files/1/0619/4878/8932/files/matisse_Studio-with-Goldfish_0.jpg?v=1762406771)
![アンリ・マティス 「金魚鉢のある室内」アートポスター(フレーム付き) / Henri Matisse “Interior with a Goldfish Bowl”名画・絵画[額入り]0](https://cdn.shopify.com/s/files/1/0619/4878/8932/files/matisse_Interior-with-a-Goldfish-Bowl_0.jpg?v=1746429142)