暑さの厳しい8月の終わり。
上野の国立西洋美術館で開催されている
ロンドン・ナショナル・ギャラリー展へ行ってきました。
“「イギリスとヨーロッパの交流」を キーワードに、西洋絵画史を読み解く。”
というのが本展覧会のテーマ。
展示されている61作品の、すべてが初来日だそうです。
以下は特に印象に残った作品についてです。
入場してすぐ展示されていましたが
縦2mもある絵の大きさと細密な表現に、圧倒されました。
描き込まれた装飾がとても美しくグラフィカルで、なんとも魅力的。
天からの光がちょっと不自然?な角度で射しているようにも見えますが…
孔雀や絨毯、りんご等も妙な立体感があり、平面的であり立体的であり、トリックアートに似た不思議な印象がありました。
おそらく「あえて」そうしているのだと思いますが
夢の中にいるような、非現実的な不思議な感覚があります。
またところどころに発色の良い金の絵の具が使われていたりして、
箔押しされた豪華な印刷物のようでもあり、
世界の文様や装飾全集などの書物に掲載されている作品の
実物を見ているようでもあり、 いつまででも眺めていられる作品です。
同時に、キリスト教や聖書に関する深い知識がないと、
この絵を価値や魅力を本当に理解することはできないのかもしれない…
と少し残念にも思いました。
なんとも生活感の溢れる食卓の風景。
食事の風景を描いた作品は個人的にとても好きです。
どんな場所で、どんな食べ物を、どんな格好で食べていたか?
「何かを食べる」という人類共通の行動の中に
その時代や国に生きる人たち独自の文化や生活様式がよくわかる気がします。
ヤン・ステーンは放縦な家庭の光景を多く描いていた為、
オランダ人は乱雑な家のことを「ヤン・ステーンの家庭」と呼ぶそうですが
この食事風景はまるで今の自分の家庭のように感じてしまいました。
散らかった部屋、あどけない子供、
暗がりで粛々とパンをスライスするお父さんに共感…
フェルメール最晩年の作品。
よく見るとフェルメールの作品特有の窓からの光が無く
コントラストも少ない特殊な絵と言われているものです。
フェルメールの絵画は構図や光、肌や布の質感などが注目されますが、
絵そのものが美しいだけではなく
画面の構成要素に、それぞれ隠された意味があり
メタファーになっていることが多いです。
・カーテンのかかった窓
・ヴァージナルの意味
・画中画「取りもち女」
・対となる絵「ヴァージナルの前に立つ女」との比較
など…
感じるままに見ることもできるし、様々な要素を深読みすることもできる。
総合的に見ていくと、何かのストーリーが浮かび上がってくるようでもある。
しかし明確な答えは分からないまま、
見る人によって幾通りにも解釈できる作品。
フェルメールは本当はどんな気持ちでこの作品を描いたのだろうか。
色々考えていくと一枚の絵画の中に、一つの映画を見ているような
濃いストーリーが隠されているように感じられ、とても引き込まれました。
聖マルガリータは妊娠している女性の守護聖人だそうです。
聖マルガリータについても画家のスルバランについても知りませんでしたが、
この作品自体には不思議と、とても惹きつけられました。
静かで、少し怖いくらいに感じられる、
凛とした強さのある女性(聖人)の絵。
いつかスルバランの展覧会があれば、ぜひ行ってみたいと思いました。
そのほかゴッホやルノワール、モネ、ドガ、
ゴーガン、ターナー、レンブラント等々
巨匠の名作揃いの豪華な作品が展示されており
一度に見るのがもったいない位でした。
今回、会場では入場制限もされていたのですが、金曜の夕方ということもあり
思いの外、館内に人が多く気がつくと
作品の前に大勢で密集していることがしばしば。
変に「密にならないようにしなくては」などと考え、
あまり集中して鑑賞できなかったかな…
混雑したミュージアムショップで、なんとか図録を買い、
外へ出ると、うだるような暑さ。
館外の彫刻も心なしか、いつもより苦しそう?に見えました。
今度からは平日の午前中など、
もっと空いている時間帯に行こうと一人誓い、帰路につきました。