11月中旬。
三菱一号館美術館で開催中の「ルドン、ロートレック展」へ行ってきました。
おそらく今回の企画はコロナの影響で
海外から作品を取り寄せたりすることのできない中
なんとか開催してくれた展示会だと思います。
ロートレックについては何度も当美術館にて、鑑賞させていただいている為
今回はルドンの作品に特に集中して見てきました。
木炭によるデッサン。
『永遠を前にした男』
パスカル「パンセ」の“この無限の空間の永遠の沈黙は私を恐れさせる”
という一節と関連がある作品と言われているようです。
詳しいことは分かりませんが、描かれたシーンとタイトルが組み合わせが
すごくいいなと思いました。
こちらも詳しい説明はありませんでした。
描かれている人物は哲学者となっていますが、
何かを探求する者という意味では
それはルドン自身、また絵の鑑賞者たちでもあるのではと思いました。
不気味で、でもとても意味ありげな、何か深く考えさせられる絵。
実際には何を意図して描かれたのでしょうか…
こちらをあざ笑うかのような表情の蜘蛛。
同時に真っ黒くろ助?のような、チャーミングさもあります。
繰り返し描かれている「目を閉じた人」のモチーフ。
穏やかな表情。
何かに聞き入っているようにも見えます。
目を閉じることによって、
初めて見えたり聞こえたりする(もしくは感じる)ものについて
描こうとしていたのかもしれません。
ルドンは人間の内面や夢、神秘性などを象徴的に表現しようとする
象徴主義の画家として捉えられています。
そのため、見えるものそのものの美しさを表現する印象派の作品と違い
鑑賞する側も、単純に絵そのものの美しさを見るだけではなく
その絵の奥にある深い、言葉にならない精神世界、真理(のようなもの)を
色々と想像ながら見ることになります。
最近の研究ではルドンの表現した作品世界を、思わせぶりだという批判や
「孤高の画家」というのはルドン自身による演出なのでは、
とも言われているようです。
写実主義や印象派と差別化し、世間から注目され、認めてもらうために
あえて独自の世界を演出して表現したのでは、とのこと。
今でいうポジショニング戦略やマーケティング、ブランディングの先駆け
ということでしょうか…
でも、もし仮にそうだったとしても(そういうことを差し引いても)
ルドンの描いたテーマや、作り出す作品世界は、
僕にとって何かとても心惹かれるものだと今回改めて思いました。
以下は後期に描かれたパステル画。
今回の展示では少なかったですが、ルドンの描く花は
華やかな色彩の中にもどこか落ち着きや深みがあり、
とても魅力的なものばかりです。
この色使いは、過去にモノクロームの世界を
ずっと描き続けていたルドンだからこそ表現できるもののようにも思いました。
40歳で結婚したルドンは自身の長男を生後半年で亡くしていますが、
49歳になり次男アリが生まれたことから、
画風が明るくなり色彩も豊かになったそうです。
子供が生まれたことで、これまでの自分の考え方や価値観が変わり
作品自体も大きく変わっていくのは、なんだか不思議なことのようですが、
でもすごくよく分かる気もします。
何度見ても圧倒されるグランブーケ。
お城の食堂に飾られていたそうです。
その当時の状況を再現するためか、展示室はかなり薄暗く
この絵だけがとても鮮やかに浮かび上がって、なんとも幻想的な空間でした。
とても大きいので、近くから見たり、離れて見たり、角度を変えて見たり。
時間を忘れてずっと眺めていたい作品。
日が落ちると中庭はイルミネーションが綺麗で、
まだ11月でしたが、すっかりクリスマスムード。
「グラン・ブーケ」はあまりに良かったので、
ミュージアムショップでポスターを購入。
帰って自宅の狭い食卓に飾りました。